フリーウエイを利用して長旅をしていると、州境をまたいだあたりで『Weight Station』と書かれた看板を見かけることがある。アメリカを象徴する存在の一つである、大きな18輪トレーラーを中心としたトラックの重量を計測、積載オーバーがないかを確認し交通事故を防ぐこと、そして州の入り口であるその場所で、持ち込まれる荷を確認することを目的に設置されているという。映画の中では悪者として扱われることも多い18輪トレーラーだが、実際は乗用車よりずっと低く設定された制限速度や、こういった施設の存在で、厳しく取り締まられている。そのせいだけでもなかろうが、旅の途中で出会うトレーラーは例外なくジェントルに走行しており、トラックドライバーたちもナイスガイであることが多い。
『Weight Station』でチェックされるトレーラーの積み荷の話しに戻る。合衆国の名の通り、州軍(州ごとの軍隊)まで存在するほど、それぞれの州が独立した国家のように異なる考え方、法律を持つ土地柄だから、麻薬はもちろんのこと、酒類、柑橘類、動植物などの持ち込み条件も州ごとに異なる。州法に触れる荷が見つかった場合には、その先に進めなくなることはもちろん、罰則を受けることにもなるのだ。
フリーウエイ上で日本のようなパーキングエリア、サービスエリアのような施設にはほとんどお目にかかったことがない。フリーウエイは通行料金がかからない高速道路、つまり出入りがFREEゆえ、食事や給油、休憩の必要があれば、それらの表示のある出口を出てしまえばいいわけで、だから時々ある『Rest Area』の看板に従って進んでも、そこにはだだっ広い駐車場があるのみ。飲み物の販売機はもちろん、トイレすらない所も少なくないのだ。
モーターサイクルで走るにはまだ肌寒い春先、快晴の昼下がり、NewMexico州の東端あたりの小さな街で昼食をとり、借り物のハーレダビッドソンで再びInterstateを東に走り出す。冷たい風のせいか、それともコーヒーの飲み過ぎか、ほどなくトイレに行きたくなったが、例によって『Rest Area』にはトイレがないし、隠れられる遮蔽物もない。諦めてそこを走り抜け、『Welcome to Texas』の看板を越えて見つけた『Weight Station』に駆け込む。腹の出っ張った白人のオフィサーが、不審そうに腰のホルスターに右手をやりながら近づいてくる。ここはモーターサイクルとは縁のない施設、確かに僕は不審者だ。そんな彼に両手を見えるようにしながら、少しオーバーな笑顔で事情を話す。すると笑顔になった彼は、事務所代わりのモーターホームにあるトイレを使わせてくれた。
帰り際、礼を言いつつ「写真を撮らせて欲しい」と言うと、わざわざパートナーを呼んでテンガロンハットをかぶり直し、フォード・クラウンビクトリアの前でポーズをとった。
(2001年、大陸横断ツーリングの道中でのスナップから)