25年ほど前、僕が大学に通っていた頃には、生活拠点だった東京の多摩エリアにもクルマの解体屋がたくさんあった。プレハブの事務所にはどこでもだいたい無愛想なオヤジさんがいた。部品を探しにきたと告げると、僕と乗ってきたクルマを値踏みするようにジロジロ見てから、「はずした部品は必ずここに持ってきてね…」と決まって渋々、解体車置き場に行くことを承諾してくた。足を踏み入れるとそこは宝の山、お目当ての部品、例えばGTモデルだけに装備される砲弾型のフェンダーミラーや凹ませてしまったドアのスペアといった外装、上級グレード専用のシフトノブやバケットシートなどの内装、そしてエンジンルームからは、かつてオーナーの手で取付けられたのであろう社外品の高性能プラグコードなんかを自ら取り外して安価で購入したものだ。サスペンション等の『大物』はオヤジさんの手も借りて油圧ジャッキやウマを使って取り外した。持ち帰って自分の、そして仲間の愛車にそれらを組み付けるのも楽しみだった。
上記以外に僕が解体屋で手に入れていたのがクルマのエンブレムだ。メーカー名、車名、グレード名や装備等を凝ったデザインと造形の立体的なパーツに仕立てた、さながら西部劇の保安官バッジのような立派なエンブレムは、充分に魅力的なものだった。
今やそのほとんどが効率と経済性の名の下に味気ないステッカーに取って代わってしまったが、こんな素敵な文化が日本の自動車産業にも存在していたことを、伝えていかねばならないのかも知れない。